前回までのあらすじ
DX推進部に異動になった初心さん。DXのことがわからないなかで、外部コンサルの進方(シンボウ)さんにDXの基本について教えてもらっています。今日はDXの成功事例でイメージを膨らませるようです。
DXの進め方について解説する前に、実際のDX成功事例を知って、「DXによる目指す姿を実現する」のがどういうことか、イメージをつかんでいきましょう!
ゼロからわかる!RPAと導入のコツ
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DXの成功事例① Netflix (ネットフリックス)
ご存じの方も多い動画配信サービスを提供するNetflix (ネットフリックス)は、DXを成功させた企業としても有名です。まずは同社の沿革を紹介します。
Netflix は1997年米国で設立された会社で、当初はインターネットによる申し込みでDVDをレンタル配送するサービスを提供していました。当時はレンタルショップで手続きを取ることが当たり前で、店舗に行く必要のないこのサービスは少しずつ消費者に受け入れられるようになります。
さらに、月額15ドルで何本でもDVDをレンタルできる当時としては画期的な月額定額制サービス(サブスクリプションサービス)を設けて、延滞料金などの負担をなくし、DVDレンタル市場を独占していきます。
起業のきっかけは現CEOのヘイスティングス氏が、ビデオのレンタル延滞料金を40ドル(当時の円相場約120円で換算すると4,800円)請求されて奥さんに話すのがすごくイヤだったからだそうです
4,800円で超巨大企業が誕生したのか…
2007年になると、レンタルサービスからビデオオンデマンド方式によるストリーミング配信サービスに切り替えていきます。ヘイスティング氏は、インターネットが家庭に普及しつつある状況を鑑みて、DVDの到着を待たずにストリーミング配信で映像を楽しむ時代が来ると確信していたそうです。そのため、配信サービスへの投資を惜しみませんでした。
当時、レンタルサービス事業が好調であるにもかかわらずストリーミングサービスに切り替えたことで消費者は戸惑ったということですが、結果は爆発的に普及しました。
現在もDVD配送レンタルサービスは継続しつつ、ストリーミング配信を全世界で行い、2016年からは映像やゲームなどオリジナル作品の制作にも参入するようになりました。
NetflixのDX成功ポイント
この沿革でDXによる転換期が2カ所あります。
創業期、当時店舗対応が当たり前だった市場に、インターネットによる申し込みサービスを導入したこと。
そして配送レンタルサービスからストリーミング配信サービスに切り替えたことです。
創業期のレンタルDVD市場は飽和状態で、後期参入が有利とはいえませんでした。所持するDVD作品は1000本もなく、大手と渡り合える状況でもなかったことは明らかです。
それでもこの状況を変えたのが、「インターネットによる申し込みサービス」「自宅にいたままDVDがレンタルできる」という新しい消費スタイルの提供にあることは間違いありません。
そして好調だった配送レンタルサービスを縮小してまでストリーミング配信サービスに切り替えた点。これも「DVDソフトがなくても映像作品をすぐにレンタルして自宅で楽しめる」という新しいライフスタイルを提供することになりました。
いずれもインターネットとデジタルの力を活用して、新しい価値を私たちに提供してくれています。
DXの成功事例② Amazon
Amazonは1994年、インターネットによる小売業の可能性を感じたジェフ・ベゾス氏がオンライン書店として立ち上げました。
書店はどれほど大規模であっても店舗を構えている限り取扱点数には限りがあります。一方、オンライン書店であれば全ての既刊本を取り扱える点で圧倒的に有利である、という着想があったのです。
日本では1993年に旧郵政省がインターネットの商用利用を許可し、接続が始まったばかり。まだほとんどの消費者がインターネットを使ったこともなく、買い物をする消費者がいるかどうかもわからないなかで、Amazonは事業をスタートさせて3カ月で評価を得て、1997年には上場を果たします。
ベゾス氏はインターネットを介した小売を行うにあたって「オンライン上でなければできない販売の仕組みをつくる」という目標がありました。実際にレビュー機能やワンクリック購入システムを開発・実装し、この利便性が顧客満足度に大きな影響を与えています。
あのワンクリック、すっごく便利。ほかの会社もマネしてくれたらいいのに…
ワンクリックのシステムはAmazonが特許を持っているので、他社ではマネできないんですよ。Amazonは創業時から「顧客第一主義」を掲げていて、そういった点もサイトの使いやすさに大きく影響しているんでしょうね
そんなAmazonのEC事業を支えているのがAWS(アマゾン・ウェブ・サービス)です。
AWSはAmazonが運営しているクラウドサービスのプラットフォームのこと。
サーバやストレージ、データベースなど200以上のフル機能サービスをクラウド上で管理することができ、これら機能を組み合わせることでユーザの必要なインフラをスピーディに構築することができます。
同社ではインターネットであらゆる物品を取り扱い、さらにレビューなどさまざまな機能を持たせるため、自社によるウェブシステム構築は必須でした。そうして自社で開発したWebサービスを、Amazonは他社にも販売するようになったのです。
こうして物販のほか、Webシステムサービスの提供にも手を広げ、同社は皆さんが知るようにあらゆるものを取り扱う巨大ECサイトへと成長しました。
AmazonのDX成功ポイント
Amazonはそもそも、インターネット黎明期からECの将来性に着目したテック企業ですが、DXといえるのがAWSを社外に提供したことでしょう。
AWSはもともとAmazonが多くの国・地域で事業を行うため、時差を考慮したWebページ作成を実現しなくてはならず、クラウド化が必須でした。当時そのようなインフラがなかったため、自社開発に踏み切ったのです。
当時のAmazonも組織の縦割り化が問題となっており、部署ごとにインフラをつくる傾向にあったそうです。それを解決するために、インターフェースを一元化して運用することを決定。このコンセプトのもと、エンジニアも外部エンジニアもAPIを通してアクセスできるように作成することになりました。
そして完成したシステムを外販することになり、現在ではマーケットシェアの約4割を占め、Amazonの全事業の営業利益の6割を担う重要な事業へと成長を遂げました。先述したNetflixもAWSのサーバを利用しているなど、大手企業も活用しています。
Amazonみたいなベンチャー発のテック企業でも、縦割り組織になっちゃうんだ
そうですね。そんな状況でどうやって動くのか。それを学ぶのに、こうした事例は最適ですよ!
DXの成功事例③ セブン・イレブン・ジャパン
コンビニ業界で売上高が最も高いのが「セブン‐イレブン」です。早くから顧客の購買データを取得するため、2007年に自社※による電子マネーサービス(nanaco)を導入しています。
※取り組みは持ち株会社であるセブン&アイ・ホールディングス。セブン‐イレブン店舗から導入をスタートし、順次グループ企業に展開。
これは顧客の購買行動を蓄積し、そのビッグデータから購買トレンドを分析するという構想のもとに進められたものでした。
2018年には「セブン‐イレブン・アプリ」も導入。ユーザの属性やアプリを起動する時間帯によってクーポンや広告の内容が変わるといったサービスを提供しています。こうした内容は、まさに集積したビッグデータを活用した結果と言えるでしょう。
そして現在ではネットコンビニサービス「7NOW」※を展開。サービス内容は注文者の近隣店舗から最短30分で店内商品を配達するというものです。注文アプリと店内の在庫システムがクラウド上で連動しており、店外から店頭にある商品と数を把握することができます。先んじて北米のセブン‐イレブン・インクが実施して4,000店舗が導入しており、同じ仕組みを日本に持ってきた形です。
※東京・神奈川・北海道・広島エリアの一部店舗で対応。
セブン‐イレブン・ジャパンのDX成功ポイント
セブン‐イレブンはもともと「365日開いている店があると便利」という鈴木敏文氏の発想から誕生したコンビニ業態のパイオニアであり、国内における商習慣のゲームチェンジャーであるとも言えます。
同社が現在もデジタルの力を活用して業績を伸ばしている秘訣の一つは、集めた顧客データを徹底的にサービス提供に活用している点でしょう。
アプリしかり、ネットコンビニサービスしかり、「あれば便利」というのは誰でも何となく思うものでしょう。それを「どのくらいの人が」「どのような価格で」「どんなエリアで」「どんなタイミングで」欲しているのかをデータ分析した上でビジネスとして成立させています。
DXの成功事例④ 北海道北見市
北海道北見市は、デジタルツールを使った「書かない」窓口、およびワンストップ窓口を実現しています。
現在、全国自治体ではデジタル庁の発足とともに政府共通クラウドサービスの利用環境を統一する動きがあります。地方公共団体の導入目標は2025年度で、クラウドサービスを利用する上で業務フローの見直し(BPR)も進められています。
そんな中、BPR※の取り組みとあわせて、バックヤードではRPAを活用し、受付窓口においてもシステム化を進めているのが北海道北見市です。
※ビジネスプロセス・リエンジニアリング。業務本来の目的に向かって既存の組織や制度を抜本的に見直し、プロセスの視点で、職務、業務フロー、管理機構、情報システムをデザインし直すこと。
住民の申請書記入や窓口支援システムを活用した手続の自動判定により、代理受付を実施して住民が窓口を回る手間を削減しています。
取り組み概要
○書かない窓口の実施(BPR/UI・UXの改善)
職員が来庁者の本人確認を実施し、来庁者から必要な証明書を聞き取りながらシステムを利用、申請書の作成を支援。来庁者は申請書に署名するだけでよく、申請手続きが簡略化した。
○ワンストップ窓口の実施(BPR/業務の集約)
他課の手続きを「住民異動窓口」に集約。来庁者の移動や、課を回るごとに発生する本人確認、異動内容の説明の手間を省略した。手続きは窓口支援システムで自動判定し、住民窓口で代理受付や案内をする。
○ RPAの業務利用
証明書交付申請および住民異動届受付時のデジタルデータを活用し、証明交付および住民異動入力業務をRPAにより一部自動化。
北見市のDX成功ポイント
地方自治体でDXを成功させるポイントは、「目指す姿」の明確化です。つまり、「デジタルによって市民サービスを向上する」という目的意識を持つことと言えます。
北見市はRPA導入でバックヤード業務の自動化を進めるだけではなく、「市民が役所を利用する上で使いづらい点はなんだろう?」という市民目線をもってDXを進めています。
「来庁時にいろんな課をたらいまわしにされる」「同じ説明を何度もしないといけない」「都度書類を記入する必要がある」「時間がかかる」といった問題点を解消し、より便利な市民サービスを提供するためにデジタルツールを使用しているのです。
また、デジタルツールを導入するだけでなく、サービス向上のため、またデジタルの力を発揮するためにBPRに取り組んでいる点も、DXで市民サービスを向上させたポイントと言えるでしょう。
まとめ:DXの先の姿をイメージしよう
いろいろな活用方法があるんだな。でもまあ、事例の規模が大きすぎてちょっとよくわかんないですね!
そうですよね。
今回事例を紹介したのは、DXを実現するとはどういうことかをイメージしてもらうためです
Netflixが提供したサービス
- インターネットによるDVDレンタル申し込み
- レンタルDVDの配送
- 月額制によるコンテンツの提供
- ストリーミング配信
Netflixが提供した価値
- 自宅でDVDがレンタルできる
- 自宅で映像コンテンツをいつでも即座に楽しめる
Amazonが提供したサービス
- クラウドなのですぐにインフラを構築できる
- すぐに使用できる状況がクラウドにあるため、初期費用がかからない
- 拡張性とセキュリティレベルが高い
Amazonが提供した価値
- 社内システムを外販して新たな事業の柱とした(社内に対しての価値)
- 新規事業やスタートアップなどでコストを抑えて素早くサービスを構築できるインフラを提供(社外に対しての価値)
セブン‐イレブンが提供したサービス
- ユーザに合わせたクーポンの配布
- ネットからコンビニの商品を注文できる
セブン‐イレブンが提供した価値
- 自分のニーズに合ったお得さ
- 「今すぐ」届くショッピング体験
北海道北見市が提供したサービス
- 書かない窓口の実施
- ワンストップ窓口の実施
北海道北見市が提供した価値
- 利用しやすい市役所
「新しい技術を使ってこれまでにない価値を提供する」っていうのは、なんとなくわかったかも
とくに注目してほしいのは、NetflixとAmazon。
2社とも、「延滞料金を払わないDVDレンタルのシステムをつくりたい」「インターネットを使って顧客が満足する小売システムを生み出したい」という「目指す姿」のためにアイデアを駆使し、ときにそれまでの成功体験を捨てて新しい方法を思い切って試している点です。
そして2社とも、変革には長い時間をかけています。
DXで結果を得るには時間とコストの投資が必要です。また、紹介した2社のように、これまでにないスタイルを生み出すパイオニアになることはどんな会社にでもできることではありません。
ですが、こうしたパイオニアが登場したときに、柔軟に対応できる経営体制であるかが、これからの企業には求められます。その柔軟さを得るために進めるのがDXなのです。
うーん、なんだか難しそう…うちの会社にできるのかな?
難しいと感じるのは、どうすればいいのか、目指す先がわからないからじゃないでしょうか? DXの進め方を知って、一つずつクリアしていけば着実に前進できますよ
次回はDXを進める上で「目指す姿」をどうやって決めるのか、考え方について解説します!
つづく
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