2023年3月に米国の非営利研究機関であるOpenAI社からリリースされたAIチャットサービス「ChatGPT」は、まるで会話をしているような自然な文章を生成することで大きな話題となっています。また、生成された会話内容についても、ウェブ上の膨大なデータから学習することで日々精度を上げており、大手企業はその動向を注視しています。
AI市場は過熱の一途を辿っており、ChatGPTとほぼ同時期にGoogleから「Bard」というチャットAIのベータ版が米国で公開(日本では5/20に公開)。さらにMicrosofは検索エンジンBingにチャットAIを搭載し、3月16日にはMicrosoftアプリケーションにAIが搭載された「Microsoft 365 Copilot」のプレゼンテーションもありました。
それぞれ期待のかかるAI技術。本稿では、すでにリリースされて活用されはじめているChatGPT、Bard、BingAI、そしてこれからの仕事の仕方が変わると期待のかかるMicrosoft 365 Copilotの機能と特徴ををご紹介します。
ロボフィス 研修サービスのご案内
ロボフィス株式会社が提供する研修サービスについて記載しています。
社員の生産性向上に関する考え方や組織内のITリテラシーの向上や、実際にITツールを使用する実務者に対する研修を、会社の風土や文化に合わせたオリジナルカリキュラムで提供しています。
AIの基本
AIサービスのご紹介の前に、まずはAIの基本情報を整理しておきましょう。
AI(人工知能)は、機械学習、深層学習、自然言語処理などの技術を利用して、人間が行う知的な作業をコンピューターで実現することができる技術です。
AIには大きく2つの種類があります。1つは「弱いAI」、もう1つは「強いAI」です。
弱いAIは、特定のタスクを行うために設計されたAIのことです。例えば、チャットボットや音声認識などが該当し、近年のAIツールの多くが弱いAIとなっています。
一方、強いAIは人間と同じように複雑な決定や動作を同時に行うことができる、人間に匹敵する知能を持つAIのことを指します。こちらも研究が進められていますが、まだ実用化には至っていません。
AIは膨大なデータ(ビッグデータ)から自律的に学習して、データを分類・予測することが可能です。それを可能とするのが、機械学習と深層学習です。
機械学習とは、コンピューターがデータからパターンを見つけ出し、そのパターンを使って新しいデータを分類したり予測したりするための技術です。
深層学習は、多層のニューラルネットワークを使って、高度な処理を行うための技術です。
このニューラルネットワークこそが、AIを飛躍的に進化させた技術です。
ニューラルネットワークは人工知能技術の一つで、多数の人工ニューロン(アルゴリズムによって模擬された人間の神経細胞)から構成されるモデルで、パターン認識や予測分析、自然言語処理などのタスクに広く使用されています。
ニューラルネットワークは、一般的に入力層、中間層、出力層の3つの層で構成されています。入力層は、データを受け取るための層であり、中間層は、入力層から受け取ったデータを処理し、出力層に伝えるための層です。出力層は、最終的な結果を出力するための層です。
各層のニューロンは、重みと呼ばれる値を持ち、入力されたデータと重みの積を取り、活性化関数と呼ばれる関数を用いて処理されます。
ニューラルネットワークは、学習と呼ばれるプロセスを通じて、入力データと出力データの間の関係を自動的に学習します。学習は、入力データと正しい出力データを与え、ニューラルネットワークが出力するデータとの誤差を最小化するように重みを調整することで行われます。このプロセスを反復することにより、ニューラルネットワークはより正確に予測を行うことができるようになります。
ニューラルネットワークは、画像認識や音声認識など、多くの分野で高い精度を発揮しています。一方で、AIがどのような経緯を辿ってデータを処理したのか、人間側から確認することはできません。この、AIの出力過程が見えないことを「ブラックボックス問題」と言い、結果の解釈や説明が困難になることがあるため、今後の課題とされています。
AIチャットサービスは、自然言語処理技術を活用したもので、これがChatGPTなどに使用されています。ChatGPTや他のAIチャットサービスだけでなく、一般企業が使用しているチャットボットや音声アシスタントなども自然言語処理技術が活用されていて、すでに私たちの日常に浸透しつつあるAI技術と言えるでしょう。
日常に違和感なく溶け込んでいる技術の中でも、さらに高度な自然言語処理技術が登場すれば、使ってみたくなるのも当然ですね。
それでは、各AIチャットサービスの特徴を見ていきましょう。
ChatGPTとは
ChatGPT(Generative Pre-trained Transformer)は、OpenAI社が開発した自然言語処理のモデル「GPT-3」を使用したAIチャットサービスです。膨大な文章データを使ってトレーニングされていて、テキスト生成や翻訳、質問応答、文章の要約など幅広く活用できることから注目されています。
ChatGPTは、「Transformer」と呼ばれるニューラルネットワークのアーキテクチャを採用しています。Transformerは、Google社が2017年に発表した機械翻訳のための深層学習モデル。自然言語処理のタスクに適していて、特に長い文章を扱う場合に有効です。
そしてChatGPTは、トレーニング時に与えられた文章データから、単語の出現パターンや文法的な構造などの言語的な特徴を自動的に学習します。これにより、ChatGPTは自然言語を理解し、自然な文章を生成することができます。例えば、ChatGPTに「最近どうしてる?」という質問をすると、自然な返答として「最近は忙しくて大変だったけど、元気にやってるよ」といった文章が生成されます。
また、ChatGPTは、トレーニング時に大量の文章データを用いることで、さまざまな言語的な知識も獲得しています。文法的な構造や単語の意味、語彙の類似性、慣用表現などを自動的に学習し、多様な言語に対応することが可能になっています。
日本語版は現在、少し違和感のある文章が出力されていますが、これは日本語の文字数が諸外国語よりも多いため、学習させるのが難しいという一面からくるものです。英語表現はかなり高い精度になっています。
ChatGPTをビジネスで活用する場面としては、以下が挙げられるでしょう。
- ブログ記事やリリース記事の初稿執筆
- メールの文章作成
- 資料、プレゼン、企画書の構成(アウトライン作成)
- 翻訳作業
- 議事録の作成・要約
いずれも、ゼロからテキストを作成するよりも、事前にChatGPTなどAIがアウトラインを作成してくれるだけで作業時間が大幅に削減できるようになります。
一方で、ChatGPTは誤った情報が出力されることもあります。そのため、現状では執筆や資料作成が丸々ChatGPTだけで完結することはありません。ChatGPTの出力をヒントに、よりブラッシュアップした内容を作成する、という使い方が現実的でしょう。
ChatGPTは、自然言語処理の分野において、大きな進歩をもたらした技術の一つと言えます。こうした高度な自然言語処理を行うツールは、ChatGPTだけではありません。
Google Bardとは
Google BardはGoogle社が提供するAIチャットサービスです。Google社が開発する大規模言語モデル「LaMDA2」を活用していて、さまざまな質問に対して柔軟に回答をすることができます。2023年2月6日に米英2か国でベータ版がリリースされ、5月20には日本語もリリースされました。一度に送信できる最大文字数は、5,000文字。使用制限はありません。
GoogleはもともとAI開発をもっとも進めていた企業の一つでした。ChatGPTでも使用されている深層学習モデル「Transformer」はGoogle社が2017年に発表したものです。
そして、2022年4月に発表されたLLM「PaLM」は、当時公開されていたGPT-3(ChatGPTで使用されているモデル)を超えるパラメータ数で話題を集めました。しかしAPI公開されないまま、その後GPT-4が公開されてしまったのです。「PaLM2」が発表されたのは2023年5月19日で、同日よりBardに実装されています。PaLM2は5400 億のパラメータで学習されており、GPT-4と同等程度のパラメータ数と思われます(GPT-4のパラメータ数は非公開)。
Bardはメール文の作成やプレゼン資料、あいさつ文などをプロンプトに沿って出力します。これについてはChatGPTやBing AIとそん色ありません。
とくにプログラム言語の対応に抜きんでている印象です。LaMDA2ではPythonをはじめメジャーなプログラミング言語20種類以上に対応。コード記述の画面も、他のAIサービスよりも実践的な印象を受けます。PythonのコードはGoogle Colab※にエクスポートできるので、コピペの手間もありません。さらに、Googleスプレッドシートの関数の作成も可能となっています。
※WebブラウザでPythonコードを実行および共有できる無料のサービス
Bing AIとは
BingAIとは、検索エンジンBingにオープンAIの最新モデルGPT-4を搭載したMicrosoft社のAIチャットサービスです。2023年2月に日本語版がリリースされていて、Bingの検索エンジンから使用することができます。Microsoftアカウントにログインしてからの利用する方法と、ログインしないゲスト利用の2通りあります。いずれも質問回数には制限があり、また利用できるのはEdgeブラウザとアプリのみとなっています。
ログインユーザ | ゲストユーザ | |
---|---|---|
セッション数(1日) | 無制限 | 5回まで |
質問数(1回) | 20ターンまで | 5ターンまで |
画像生成 | ○ | × |
ChatGPTやBardと異なるのは、出典を明記してくれる点です。ChatGPTを使用したことがある方はお分かりかと思いますが、プロンプトがChatGPTにとって回答しやすいものでない場合、架空の回答を作り出してしまうことがあります。あまりに文章が自然なため、うっかり信じてしまったものの、後々「でたらめだった」ということは珍しくないのです。
BingAIは回答を出力した情報ソースを明記してくれるので、内容を確認するのも簡単です(ただし、ソースを確認したところ回答内容に関する記載がなかったというケースもあるので、ソースは必ず確認しましょう)。
また、BingAIでは画像生成も可能です。イメージをプロンプトとして入力すると、ニーズに沿った画像が出力されます。
ChatGPTが注目を集めていますが、個人的にはこちらの方が日本語も自然で、ビジネスシーンではより安心して使用できると感じます。
AIツールの未来の一つ・Microsoft 365 Copilotとは
これまで各種AIチャットボットの特徴を見てきました。いずれもチャットボット形式でも十分に業務に活用できるAIサービスですが、Microsoftからは、さらに一歩進んだ、他のアプリケーションと連携したサービスが予定されています。それが、「Microsoft 365 Copilot」です。
Microsoft 365 Copilotは、BingAIと同様に大規模言語モデル(LLM)を用いて自然言語での対話が可能で、さらにはMicrosoft 365のアプリケーションと連携し、文章作成やデータ分析などさまざまな仕事をサポートしてくれます。
Microsoft 365 Copilotの特徴は以下の3つです。
1. コンテンツの作成サポート:Wordで文章を作成したり、PowerPointでプレゼンテーションを作成したり、Excelでデータを分析したりする際に、Copilotが初稿やラフなどを作成し、業務やコンテンツの改善をサポートしてくれます。
2. 生産性の最大化:Outlookでメールのスレッドを要約したり、返信メールの下書きを作成したり、Teamsで会議の要点やアクションアイテムをまとめたりしてくれます。また、Power Platformを使用することで繰り返し作業を自動化したり、チャットボットやアプリを作成したりすることも可能です。
3. スキルの向上:Microsoft 365には40種類以上のアプリケーションがあり、Copilotがユーザに対して効果的な使い方を教えてくれます。
例)
Word:文法や表現力についてアドバイス
Excel:データを分析する際に関数やグラフの使い方を教えてくれる
Power Platform:コーディングやロジックのヒントを与えてくれる
つまり、本格的に業務アプリケーションでAIと連携するということです。
特に注目したいのがPower Platformの自動化です。Power Automateは無料で扱えるRPAですが、ノンプログラマーが独学で学ぶのは少し難しくもあります。Power Automateの構築をCopilotがサポートしてくれるのであれば、学習のハードルはぐっと下がります。
Microsoft 365 Copilotは、2023年3月に発表され、招待制の有償プレビュープログラムに参加している600社の顧客に向けてサービスが展開されています。2023年5月11日現在で、一般向けのリリース時期や価格は未定。日本語版についても発表されていません。
かなり業務に活用できそうな機能なので、日本語版の実装が待ち遠しいですね。
まとめ
AIサービスは文字通り日々進化し続けており、Microsoft 365 Copilotのほか、GoogleもPaLM2をWorkspaceと連携することを発表しています。
私たちはなにかを書いたり、つくったりする「作業」において自由になり、他者と差別化するアイデアや企画を考えるクリエイティビティが求められるようになっていくでしょう。その時に「AIとかよくわからない」「すごそうだけれど、どう使えばいいかわからない…」といって市場から取り残されないようにするため、今からAI時代のビジネスフローを学んでおくことが重要になります。
AI、そしてデジタル化は、これから仕事をしていく上で必要不可欠なツールになります。まずは基礎的なデジタルツールや、それらを使った業務効率化に取り組んでいきましょう。「社内に専門家がいない」という場合は、外部パートナーを見つけることも大切です。
ロボフィスは全国に事業所を構え、地域の特性やクライアント企業の文化を踏まえた業務効率化・DX推進、それらに関する内製化や社内研修を支援しています。リモートによるお打ち合わせはもちろん、現地でのヒアリングも無料で行っているため、ぜひお気軽にご相談ください。
【RPAツール徹底比較】自社に最適なRPAツールとは?
代表的なRPAツールである「WinActor」「UiPath」「Power Automate Desktop」、3つの特徴をまとめて比較しました。
特典として、それぞれのツールで同じ作業を自動化した比較動画のURLも掲載しています。
RPA導入にお悩みの方、ツール選定の決め手に欠ける方はぜひご活用ください。