約730万人が暮らす中国地方。
鳥取県・島根県・岡山県・広島県・山口県の5県のうち、岡山県と広島県は瀬戸内海に面し、鳥取県と島根県は日本海に面しています。このように豊富な水資源を持つ中国地方では、石油化学工業や製鋼業、繊維業などが発展してきました。中国地方は日本におけるものづくりの拠点とも言えます。
また、農産物・鉱物資源を活かした地域独自の産業発展が見られるほか、先端技術を開発・導入しグローバルに活躍している企業も数多く立地しています。これらの伝統技術や先端技術などを活かした数多くのオンリーワン・ナンバーワン企業が立地していることも、中国地方の大きな特徴といえます。
そんな中国地方では、現在多くの自治体や企業がDXを進めており、業務自動化やデジタル化でも多くのお問い合わせをいただいています。
本稿では、中国地方のDX・デジタル化の現状についてまとめています。
「地方だからDXが進まない…」「中小企業だからDXなんて必要ない」と思っている地方の中小企業や組織の方々は、参考になる取り組みが多いと思いますので、ぜひ最後までご覧ください。
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中国地方におけるDX・デジタル化の進捗状況
まずは中国地方におけるDX・デジタル化の進捗状況を整理します。
帝国データバンクでは、2022年11月に「中国地方 DX推進に関する企業の意識調査」を実施しています。
そこで DXについてどの程度理解し取り組んでいるかという質問に対し、「言葉の意味を理解し、取り組んでいる」企業は 799 社中 113 社、構成比 14.1%、「言葉の意味を理解し、取り組みたいと思っている」と回答した企業は 27.0%(216 社)。双方の解答を合わせた『DXへの取り組みに対して前向き』な企業の割合は 41.2%(329 社)でした。
一方で、「言葉の意味を理解しているが、取り組んでいない」が 35.2%(281 社)で最も高く、「言葉は知っているが意味を理解できない」が 10.4%(83 社)、「言葉も知らない」が 5.4%(43 社)と合わせて『DXに対してアクションを起こしていない』企業は50.9%(407社)となり、半数を占めました。
多くのソフトウェア会社やものづくり企業が集まる中国地方ですが、DXの関心はまだまだ高くないのが実態のようです。
DXへの理解と取り組み
DXに取り組む上での課題を尋ねたところ、「対応できる人材がいない」が 799 社中 387 社、構成比 48.4%で最も高くなりました。次いで、「必要なスキルやノウハウがない」が 44.8%(358 社)が 4 割を超えます。DXの重要性は理解しつつも、ノウハウを持った人材がいないことが最大の課題となっていることが見て取れます。
DXに取り組む上での課題(複数回答可)
本調査では、DXを進めるにあたって注目されている「リスキリング※」についても質問しています。
※技術革新やビジネスモデルの変化に対応するために、新しい知識やスキルを学ぶこと
リスキリングの取り組み状況について尋ねたところ、『取り組んでいる』と回答した企業は 783 社中 391 社、構成比 49.9%(不回答を除く)となり、ほぼ半数の企業が何らかの取り組みを実施していることがわかりました。
「リスキリングに取り組んでいる」企業に対して取り組み内容を尋ねたところ、オンライン会議システムやBIツールなどの「新しいデジタルツールの学習」が 187 社、構成比 47.8%で最も高くなりました。次いで、「経営層による新しいスキルの学習、把握」が 38.6%(151 社)、「従業員のデジタルスキルの把握、可視化」が 32.7%(128 社)、「eラーニング、オンライン学習サービスの活用」が 30.7%(120 社)、「経営層から従業員に学習が必要なスキルを伝達」 が 29.2%(114 社)と続きます。
DXの重要性を理解しつつ、人材不足やスキル不足という課題があるため、それを解消するべく活動している段階だということが分かります。
リスキリングへの取り組み
リスキリングへの取り組み内容(複数回答可)
新しいデジタルツールの学習 | 47.8 |
経営層による新しいスキル学習、把握 | 38.6 |
従業員のデジタルスキルの把握、可視化 | 32.7 |
eラーニング、オンライン学習サービスの活用 | 30.7 |
経営層から従業員に学習が必要なスキルを伝達 | 29.2 |
DX、デジタル化に関連した資格取得の推奨、支援 | 23.3 |
他社、公官庁と連携したリスキリングの実施 | 7.9 |
大学などでの受講による学習や、学位取得の推奨 | 1.5 |
その他 | 2.3 |
中国地方におけるDX・デジタル化事例
まだまだDXやデジタル化について課題を抱える中国地方。
そんな中でも、各自治体はデジタルによる課題解決方法を模索しています。そんな取り組みを、各県ごとにご紹介します。
ぜひ自身の組織におけるデジタル化・DX推進の参考にしてください。
中国地方・鳥取県 テクノロジーの力で地域課題を解決
鳥取県は面積において全国で7番目に小さく、人口・自治体数が最も少ない県です。気候条件に恵まれ、台風などの自然災害も少ないことから、農業や漁業が盛んです。
しかし若者にとって人気がある仕事は多いとは言えず、少子高齢化もあいまって働き手が減少しているといった課題を抱えています。
これをIoTなどのテクノロジーを活用することで地域課題を解決することを目指しているのが「とっとりDXラボ」です。
ミッションは「IoT等のテクノロジーを駆使して、県内各産業に具体的に存在する“リアル”なニーズ・課題を発見し、解決につながるような事業創出を目指す」。県内産学官関係者が集まった推進チームで、IoTなどデジタル技術を使ってみたい県内企業が気軽に相談したり、専門家を派遣してもらったり、セミナー参加したりといったことができます。
まさに鳥取県におけるIoT技術の窓口的役割を果たしていると言えるでしょう。
また、民間でも積極的にデジタル技術を活用する流れがあります。
鳥取県で特にデジタルが活用されているのが、高齢化や担い手が深刻化している農業です。県も導入費を補助するなど後押しをしている背景もあります。
八頭町下坂 田中農場
田中農場では、約115ヘクタールの田畑で米やネギ、大豆などを栽培。2年前から肥料散布にドローンを活用しています。
ドローンを導入する以前は肥料やポンプを積んだトラックを農道に止め、2〜3人がかりでゴムホースを畑まで引いていました。現在は操縦者と補助者が離れた場所で作業できる上、作業時間も約1割削減できたそうです。
さらに、田植えにもGPS(全地球測位システム)の位置情報を活用して自動で進む田植え機も導入したそうです。ハンドル操作がいらず、走行しながら苗の補充ができるため、繁忙期に午後8時までかかった作業が夕方には終わるように。農業では繁忙期に休暇を取ることが難しいこともありますが、田中農場では週休二日制も導入できたそうです。
辛い仕事を削減して、若手に就農を促す狙いもあるとのことで、デジタル化の先の農業DXに期待がかかります。
中国地方・島根県 都市部と地域をICTで結ぶ「島根県ICT総合戦略」
世界遺産である石見銀山遺跡や出雲大社など、歴史的遺産が多く残る島根県。畜産・水産業も盛んで、工業でも日立金属や島根富士通といった鉄鋼・情報通信機械業が盛んです。
しかし、島根県においては、 中山間地域・離島などの条件不利地が存在し、そこから人口減少が進んでいるという課題があります。人口が減少している影響から、人材不足、税収の減少、市民サービスの低下といった課題も顕在化しており、中山間地域・離島と都市部が共存・連携していくことにICTを活用していく方針です。
そうした方針を取りまとめたのが、「島根県ICT総合戦略」です。2022年度から2026年度の5年間を目処に、さまざまなICTに関わる取り組みを行っていく予定です。
その中の一つに、しまねデジタルイノベーション推進事業があります。これは県内の中小企業における生産性向上のため、デジタル技術が有効でありながらデジタル人材を抱える企業が少ないという課題に対し、デジタル技術導入をサポートするべく立ち上げられた事業です。
デジタル技術の活用や導入の必要性について理解をうながし、アイデアの創出やビジネスプランの育成、実証実験などを支援します。
また、島根県はプログラム言語「Ruby」の教育に積極的です。島根県はこのRubyの開発者「まつもとゆきひろ氏」が在住していることから、全国の優秀な技術者を集める環境があると捉え、産官学民が一体となった活動を進めています。
島根県や松江市などの行政機関の支援だけでなく、県外の開発案件についてRubyを軸とした企業連携を行ったり、Rubyプログラマによる自主的な定期勉強会を開催したりするなど、Rubyを軸にさまざまな活動が行われているそうです。
Rubyについて学ぶ機会も多くなるため、今後もより多くのRuby技術者が生まれてくることが期待されています。
参考:しまねスタイル
中国地方・岡山県 ものづくり産業を支えるDX推進
瀬戸内海沿岸部は温暖な気候と海洋性気候の影響で、柑橘類や桃、ぶどうなどの果物や、うどんやそばなどの麺類の栽培が盛んです。ほかにも、綿花などの栽培も盛んだったことから繊維業も広がり、長年にわたって培われた縫製技術は現在も有名です。
農業や繊維業が盛んな岡山県では、さらなる生産性向上のためにデジタル化・DX推進が進められています。
2021年10月から「岡山県DX推進指針」が設けられ、まずは行政のデジタル化を推進する方針です。
もちろん、行政だけでなく民間企業もさらなる生産性向上を目指してデジタル化を進めています。その中で、岡山の繊維業でも有名な「岡山デニム」を生み出す工場の事例をご紹介します。
事例:カイタック
カイタックは、アパレルメーカーグループのジーンズ製造子会社です。国内の同規模企業としては唯一、1つの工場内で裁断から縫製・洗い加工・検品仕上げまでのジーンズ製造の一貫生産体制を持っています。
製造現場は機械化を進めているものの、ミシン・色落ち加工・検品・アイロンなどに関してはまだまだ人の技術に頼っているのが現状で、属人化してしまっているそうです。
さらなる生産性向上のため、まずはデジタル作業分析システムを導入。
これは、実際の作業の様子を動画で撮影し、システムに取り込むことで作業時間の測定や作業比較分析、手順書やマニュアルに活用できるというものです。工場内における作業の撮影データ(800~1,000)をシステムに取り込み、作業内容の分析・時間測定を行い、社内生産作業を約300工程に細分化しました。
さらにそれを活用して、作業員のレベルアップを図るための動画付き標準作業マニュアル作りにも活用しています。加えて、複数の作業者の動画を同時再生して比較し、問題分析や作業改善を行っています。
職人の定年退職も進み、技術の継承に不安を抱える中で、もこれらデータを活用することでノウハウを残していくことも考えているそうです。
岡山デニムのすばらしさを、ぜひ後の世代にもつなげていってほしいですね。
中国地方・広島県 30年後を見据えた「広島たちまちDX」
広島県では、30年後に市民がデジタル技術によって利便性の高いサービスが受け取れ、幸福度の高い生活を送ってもらう未来を目指して、DXを推進しています。
DX計画として掲げているのが、「広島たちまちDX」です。「たちまち」とは、「とりあえず」という広島の方言。取り組みの実践を小さな単位で繰り返し、成功や失敗の経験を活かしながら目指す姿を実現していく、というDX推進に対する姿勢が込められています。
この取り組みの要になるのが、人材育成、データの集積、官民データの連携です。デジタル人材の育成を進め、小さな成功や失敗のデータを蓄積し、オープンデータなどで官民が連携していくことを目指しています。
そうした方針から、広島県ではさまざまなDX施策が打ち出されています。
ひろしまサンドボックス
ひろしまサンドボックスは、AI/IoT、ビッグデータ等の最新テクノロジーを活用して産業・地域課題の解決を試みる実証実験の場です。
特徴的なのは、技術やノウハウを持つ県内外の企業や人材を積極的に呼び込み、県内企業とのコラボレーションを進める点。すでに多くの実証実験が実装段階へと移行しています。
イノベーション・ハブ・ひろしまCamps(キャンプス)
イノベーション・ハブ・ひろしまCampsは、新たなビジネスや地域づくりなどにチャレンジする多様な人が集まるイノベーション創出拠点です。起業家や経営者等によるトークセッションや、若手新規事業担当者などを対象にした人材育成プログラムなど、イノベーション創出につながるセミナーやイベントも開催。レーザーカッターや3Dプリンターを備える「Fabエリア」、顧客の反応をダイレクトに感じられるテストマーケティングができる「マルシェエリア」などの施設も備えられています。
自治体が実証実験を積極的にサポートしてくれる環境は、デジタル化やDXの意欲を持つ人材も集まり、知見も得られやすくなります。
以下は、実際に「ひろしまサンドボックス」実装支援事業に採択されている事例です。
事例:AIロボット「ユニボ先生」
ユニボ先生は、子どもと対話しながら学習を指導する先生ロボットです。できれば褒めて、できなくても励ましてくれるので子どもの学習意欲を刺激してくれます。
小学校1年〜6年生までの算数の授業が指導でき、ほかにも知育教育かるたといった遊びも子どもたちと一緒にすることができます。
かわいい筐体で子どもたちから注目されやすく、なにより、なかなか先生と打ち解けられない子どもでも「生身の人間ではないからこそ打ち解けられる」というケースもあります。
また、生徒数が少ない学校においても活躍が期待できます。
複式学級※で授業が進められる際、一方の学年を指導しているとき、もう一方の学年の指導をユニボ先生に任せることができます。ユニボ先生が指導することで子どもたちの集中力が途切れず、また先生も2学年分の教材を準備する時間を削減することができます。
※一人の先生が同時に2学年を教える学級
ユニボ先生はすでに複数の小学校や塾で多くの子どもたちに算数を指導しています。
詳細はこちら:AI ロボット – ロボフィス株式会社 (rpa-roboffice.jp)
中国地方・山口県 「Y-BASE」を中心に広がるDXの波
山口県では2022年より「やまぐちデジタル改革基本方針[2023改訂版]」を打ち出し、5年間のDX推進計画に取り組んでいます。
それまでも山口県はDXに対して前向きに取り組んでいて、2021年6月には官民連携のデジタルコミュニティ「デジテック for YAMAGUCHI」を発足。同年11月にはDX推進の拠点となる「Y-BASE」<https://digitech-ymg.org/y-base/>を開設しています。
デジタル技術を活用して、山口県が抱える地域課題の解決や、新たな価値の創造を持続的に行うため、市民活動からビジネスまで幅広く取り組む官民連携の会員制組織。会員数は934(個人771、法人163)。レノファ山口駐車場の空き状況等を確認できるWEBサイト開発等の共創活動4件、聴力の弱い方との意思疎通を支援する「窓口相談支援システム」等の先導プロジェクト実証22件など実績も豊富です※。
最先端技術紹介、DXコンサルティング・技術支援、DXイベント・勉強会などに参加できます。さらに、クラウドによるICT環境『Y-Cloud』『山口県データプラットフォーム』を活用して、課題解決に向けたデータ分析や実証実験を行うことも可能。利用者は3,932人、DXコンサルティング実績は157件にものぼります※。
※2023年2月末時点「やまぐちデジタル改革基本方針[2023改訂版]」より
全ての県内事業者がDXに興味があるとは限りませんが、「デジタルとはどういうものか?」という疑問を持つ方に対して、実際に触ってみたり、専門家と話したりする機会を設けて、デジタルの敷居を下げようという試みが興味深いですね。
そんな同県で、今注目のメタバースを活用した事例がありましたのでご紹介します。
事例:メタバースを活用したオンライン美術作品展の実現
山口県教育庁特別支援教育推進室では、校外学習において障がいのある児童生徒を会場へ連れていくのが困難であるという課題を抱えていました。同時に、コロナ禍で外出が難しいという状況にも対応することになり、展示会などをどのようにして開催するかを検討する必要が出てきたのです。そこでオンライン展示を企画。
Y-BASEでメタバースを活用した作品展開催を提案し、メタバース環境の構築支援・作品展の運営方針の検討のコンサルティングを実施しました。
参考:やまぐちDX推進拠点 Y-BASE DXコンサル事例集
デジタル技術は、これまで難しいとされていた課題を解決するきっかけになり得るものです。障がいのある子どもたちが豊かな感性を育むことにつながる素晴らしい活用事例ですね。
まとめ
自動車製造や鉄鋼、繊維業といったものづくり企業が集まる中国地方。
ものづくりの現場であれば、デジタル化やDXによる業務効率化や高付加価値につながりやすい傾向があるため、取り組み意義は大きいでしょう。各自治体も積極的にDX推進に動いていて、官民連携の事例も増えています。
そんな中、ネックになっているのがDX人材不足。
前述したように、リスキリングに取り組んでいるものの、講師役や相談できる先がないというのも課題です。
DX人材を自社で育てるのが難しいと感じている場合は、ぜひ外部の協力会社を頼ってみてください。自社にはないノウハウを効率的に得ることもできますし、場合によってはデジタル化や推進をサポートしてもらうことも可能です。
ロボフィスは全国に事業所を構え、地域の特性やクライアント企業の文化を踏まえたデジタル化・DX推進を支援しています。広島県広島市にも中国事業部を構え、RPAをはじめとするデジタルツールの導入・構築の経験が豊富なコンサルティングエンジニアが所属しています。リモートによるお打ち合わせはもちろん、現地でのヒアリングも無料で行っているため、中国地方でデジタル化・DX推進をお考えの方は、ぜひお気軽にご相談ください。
ロボフィスのRPA導入支援なら
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