近年、弊社では首都圏の大企業だけではなく、地方企業や地方自治体からもRPA導入、ひいてはDXについてのお問い合わせが増加傾向にあります。
その背景には、地方ではIT企業、とりわけ業務効率化やDXに詳しい企業が少ないことから「デジタライゼーションを進めなければならないとわかっているが、どこから手を付けていいかわからない」「DXに着手したものの成果がでない」「近くに相談できる専門家がいない」とお悩みの方が増えているからだと考えています。
そこで、今回は九州地方における自治体のDX戦略、それに伴う中小企業のデジタライゼーション(デジタル化)、DX推進の状況をまとめました。
九州地方の企業の方は「こんな取り組みがあるんだな」と参考していただき、他県の方は自身の県と比較するなどして、業務改革・DX推進の参考にしていただければと思います。
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社員の生産性向上に関する考え方や組織内のITリテラシーの向上や、実際にITツールを使用する実務者に対する研修を、会社の風土や文化に合わせたオリジナルカリキュラムで提供しています。
地方企業の経営課題を解決する一手となるDXとデジタライゼーション
地方企業の大きな課題は、人材の確保です。
出生率が減少し、かつ、その後も人口が流出してしまい、働き手が少なくなっている中で、地方企業は首都圏以上の魅力を打ち出して人材を集めなければなりません。人手不足、後継者不足はすぐにも対応したい大きな課題と言えます。
そんな地方企業における人材不足解消の一手として注目されているのが、DX<Digital Transformation|デジタルトランスフォーメーション>です。
DXとは、以下のように説明されます。
「企業がビジネスの激しい変化に対応し、データとデジタル技術を活用して、顧客や社会ニーズをもとに、製品やサービス、ビジネスモデルを変革するとともに、業務そのものや組織、プロセス、企業文化・風土を変革し、競争上の優位性を確立すること」
経済産業省「DX推進ガイドライン」より
簡単に言うと、「データ(IT)を活用することで新しい価値を生み出すこと」と言えます。
地方企業になぜDX、そしてその基盤となるデジタライゼーションが必要なのかはこちらをご参照ください。
【四国編】DXは地方創生の活路となるか? 地方企業におけるデジタライゼーションの今
九州地方の中小企業におけるDXとデジタライゼーションの今
全国の中小企業において、九州は「地域別のIT導入割合」で10地域中8位(商工中金「中小企業のIT導入・活用状況に関する調査[2021年1月調査]」より)となっており、DXの進捗が芳しくない状況が見て取れます。
一方、「DX推進に関する九州企業の意識調査」(2022年2月)によると、九州・沖縄地区(以下、九州)に本社を置く企業に対し、「DXについて、どの程度理解し取り組んでいるか」を尋ねたところ、DXの「言葉の意味を理解し、取り組んでいる」と回答した企業が 809社中 118 社(構成比 14.6%)となりました。DXの「言葉の意味を理解し、取り組みたいと思っている」(同 23.0%)と合わせると 37.6%の企業がDXへの取り組みを前向きに捉えています。
これらデータから、九州の中小企業ではDXへの取り組みはなかなか進んでいないものの、必要性を把握し、取り組みに対して前向きに考えている姿が見て取れます。
各県は県内の企業のデジタライゼーション・DXを進めるべく、さまざまな戦略を打ち出しています。
本稿では、九州各県がDXを目指してデジタライゼーションに取り組む事例の、一部をご紹介します。
九州・福岡県:「福岡県中小企業生産性向上支援センター」から中小企業のDXを支援
中小企業のDX推進による生産性の向上を目指して、2019年9月に「福岡県中小企業生産性向上支援センター」が開設されました。こちらではアドバイザーが企業診断から業務プロセスの改善、設備導入まで一貫した伴走支援を実施しています。
2022年4月からは、デジタル技術の導入による生産性の向上を支援する「デジタル支援ユニット」、コロナ禍の影響が特に大きい宿泊事業者の生産性向上、収益力の改善を支援する「宿泊業支援ユニット」をセンターに設置し、支援体制を強化しています。
DX支援事例:久留米印刷株式会社
業態:製造から物流まで一貫生産体制を堅持する印刷会社
課題:製造現場ではすでに業務改善に取り組んでいるものの、バックオフィス業務に遅延している工程が見られました。例えば材料仕入れや資材発注などの業務では、取扱品目・量とも多いにもかかわらずアナログかつルーティン業務を繰り返すことに人手を割いている状況でした。
■改善
- RPAを導入してルーティン化した事務作業を効率化
- IT専門外の担当者がRPAとマクロを連携させて自動化を実現
バックオフィス業務の現状を分析し、時間がかかっている事務作業を特定。紙で受け取った納品書をもとに基幹システム内のデータを1件ずつ確認し、問題なければデータの消込を行う、といった繰り返しの短銃作業をRPAで自動化。年約500時間かかっていた作業がおよそ50時間で完了するように。
RPAの効果をさらに活かすべく、Excelのマクロも組み込むように。人材を育成して社内内製化も進めているそうです。
参照:福岡県中小企業生産性向上支援センター「生産性向上事例集Ⅱ」より
九州・ 佐賀県:「佐賀だからこそできる!」を合言葉にしたDX推進。
佐賀県産業スマート化センター
佐賀県は九州の中でも特にDXの意識が進んでいます。
「佐賀を東京や福岡など都市部とは一味違った、地方からのイノベーションの苗床や、そのロールモデルにしていきたい」という担当者の情熱からさまざまな活動を展開しており、先進的なDXに対する取り組みで他県からも注目されています。
数あるDXの取り組みなかで、産業におけるDXは「佐賀県産業スマート化センター」がサポートしています。同センターは各企業からの個別相談を受けてIT企業とのマッチングを行ったり、ショールームでさまざまなアプリやデバイスが体験できたりする全国初のDX推進の「ハブ」的存在となっています。
DX支援事例:株式会社中野建設
業態:大正7年創業の老舗建設会社
経緯:2015~2016年「公共工事の品質確保に促進に関する法律」の改正をきっかけに業務のICT※化をスタート。「まずはやってみる」の方針で、さまざまな業務でICTを取り込み、使っていく中で現場業務とマッチした内容を継続・拡大する方針を取っています。
※Information and Communication Technology。通信を使ってデジタル化された情報をやりとりする技術のこと
■改善
●土木事業部
- ワンマン測量機械「杭ナビ」と工事写真整理・共有用の電子黒板導入
- 測量・設計・施工・検査・維持管理などすべてのプロセスにICTを導入、建設現場の生産性向上を目指す(「i-コンストラクション」の取り組み)
- Webカメラやネットワークカメラを活用した遠隔臨場
- 画像解析技術・AIを活用した煩雑な鉄筋検測やコンクリート構造物の変状計測
●管理部門
RPAの導入(年1400時間の作業時間を削減)
今後は、土木事業部ではVR(仮想現実)での安全訓練や施工シミュレーション、AR(拡張現実)/MR(複合現実)での3次元モデル利用や施工機械の自律化による無人化・24時間施工などを想定しているとのこと。
管理部門では電子請求書を検討中。
また、これらDX推進のため、人材育成にも注力していく予定だそうです。
こういった支援のほか、2022年はカジュアルにDXを語り合う「SAGA DX Radio 〜ランチタイムのDXトークセッション〜」をfacebookで配信。多彩な方法で自治体・民間企業を巻き込む施策を展開している点がユニークです。
※ロボフィスは佐賀県産業スマート化センターのサポーティングカンパニーです。センターショールームへの展示アプリ・デバイスの提供、セミナーやイベントの共催、デジタル技術を導入検討中の県内企業のマッチング依頼に当たっての紹介先などとして、センターの活動に協力しています。
九州・ 長崎県:地形の不利を乗り越える!「県内中小企業DX促進事業」を発足
長崎県は地形的な要素で、なかなかデジタライゼーション(デジタル化)が進まないという大きな課題を抱えています。
県内は離島・半島、中山間地域が多く、採算性の問題から民間事業者による光ファイバなどの通信基盤整備が進みにくい状況にあります。そのため、とくに離島地区において公設で光ファイバなどの情報通信基盤を維持管理していますが、その費用が地元自治体の負担となっているそうです。
一方で、人口の大幅な減少が見込まれるため、デジタルの活用による生産性向上が急務となっています。
そんな中、「県内中小企業DX促進事業」を発足。電話、対面での案内のほか、「長崎県DX特設サイト」を設置。「どうやってDXを進めればいいかわからない」という方に対して、県内コンサルティング会社、金融機関、県内情報関連企業が連携してワンストップで対応してくれます。
県内のなかでも、佐世保市はとくにDX推進に注力していて、「つながる ひろがる 未来のSASEBO」をキャッチコピーに2020年度にはICT戦略を策定し、現在はDX戦略を実行するフェーズへと移行しています。
農林水産の分野では後継者不足の課題もあり、IoTを活用したスマート畜産や環境制御機器の導入、農薬散布用ドローンの導入などが検討されています。
参照:佐世保市DX戦略より
九州・ 大分県:DXでもっと笑顔あふれる未来を創る。「湧く沸くDXおおいた」事業
「ありたい姿を県民視点で描くためのDX」を掲げる大分県。
同県ではDXについて「外部環境の変化に対応しながら、大分県が県民中心の県政の推進、持続的発展が可能な地域社会実現のため、県民(ユーザー)視点でビジョンを描き、データとデジタル技術を活用して、行政サービスや施策、組織文化・風土を改革していくこと」と定義しています。
その上で、2022年10月より「おおいたDX共創促進事業(湧く沸くDXおおいた)」を発足。これは、大分県内のDXを進めたい事業者に対して、コンサルティングパートナーおよびソリューションパートナーとともに伴走型モデル創出プロジェクトに参加してもらい、県内事業者の参考となるモデル事例を創出する取り組みです。
本事業は2023年3月に発表会を予定しています。
大分県内にどのようなDX事例が誕生するのか楽しみですね。
九州・ 熊本県:10年後の熊本の「あるべき姿」を目指して。「くまもとDXグランドデザイン」
熊本県の現在の課題は、少子高齢化による人口構造の変化です。2045年ごろの同県において、熊本市周辺市町村以外の自治体は老年人口さえ減少するとの予測があります。
また、同県は地震などの自然災害も頻繁です。そのため、気候変動や脱炭素社会に向けた経済・社会の再構築の動きも注視しています。
これら課題を解決するべくデジタルの力を活用しようと、まずはDX推進の羅針盤として10年後の熊本の「あるべき姿」をデザイン。2021年度に「くまもとDXグランドデザイン」を策定し、その実現のため2022年6月には「くまもとDX推進コンソーシアム」が発足しました。
くまもとDX推進コンソーシアム
DXに関するイベント・セミナーを随時開催。また、県内外の企業や団体のデジタル化やDXの取り組み事例をコラムなどで紹介しています。県の補助金案内も掲示されているので、DXに取り組みたい熊本の中小企業はまずチェックしてみるといいでしょう。
九州・ 宮崎県:DXで誰もが取り組める農業を。「ひなたスマートアグリビジョン」
宮崎県は温暖多照な気候、平地から山間地に至る変化に富んだ地形や標高差など優れた資源を生かした農業を展開しています。県外にいる人にとっても、宮崎牛や完熟マンゴーはあこがれのブランド食材ですよね。
人気が高まる一方で、農家の高齢化と後継者不足が年々深刻化。そこで、ICTやロボットの力を借りたスマート農業に注力しています。
取り組んだのは以下の3つを柱とした「ひなたスマートアグリビジョン」です。
ひなたスマートアグリビジョン3つの柱
- 誰もが取り組める農業を目指した「農業のユニバーサル化」を実現
- 超省力・高効率で高収益な農業を実現
- 中山間地域など条件不利地域での持続可能な農業を実現
この柱をもとに、すでにさまざまな農業・畜産のデジタライゼーションやDXが進んでいます。
DX事例:水田センサーの活用による米の特A産地化
同県えびの市で栽培される「ヒノヒカリ」は2015年に米の食味ランキング(日本穀物検定協会主催)で最上級の特Aを取得。それをきっかけに継続的に特Aを取得するべく、JAえびの市稲作振興会内に「えびの産米特A産地化プロジェクト」(12戸で構成)が発足しました。
以降、これまで生産者の経験によるところが大きかった稲作について、水田センサーを導入して地域の気候や水田の水温などを数値で見える化。水質管理をリアルタイムで確認することで、確実に食味や品質を向上させることが可能になりました。
このDXの取り組みの成果は結果にも表れており、2019年、2020年、2021年と連続で「ヒノヒカリ」は特Aを取得しています。
九州・ 鹿児島県:デジタル化による社会変革を目指す「鹿児島県デジタル推進戦略」
日本有数の農業県である鹿児島県。同県も少子高齢化に悩まされており、5GやIoTの活用といったデジタライゼーションに活路を見出しています。
その中で、かごしまDX推進コーディネート事業サイト<https://kagoshima-dx.jp/>を開設。DXセミナーの開催、オンライン勉強会の実施、ベンダーなどを紹介する伴走型支援サービスの提供、DX推進体制構築のための社内研修サポートなどを手掛け、県内のDX推進を後押ししています。
県内のDX事例:人工知能ロボットを活用した養鶏飼育衛生管理システム
鹿児島大学や富士通株式会社などのグループにより、人工知能ロボットを活用したブロイラー養鶏飼育衛生管理システムの研究開発が行われています。
具体的には、人工知能ロボットやセンサー、赤外線カメラなどで鶏舎内を監視し、死亡した鶏などを自動で発見、自律移動ロボットが回収する衛生管理システムを開発。死亡鶏の数を自動でカウントして報告し、前日比・前週比が2倍になるなどの異常があれば自動的に通知するような仕組みも検討されています。
このシステムが完成すれば、農家の省力化や作業に人を介さないことによる防疫態勢の強化にもつながると期待されています。
参照:鹿児島県IoTラボ
九州地方におけるDX推進の課題はIT人材の育成
さまざまなデジタライゼーション・DXの施策を打ち出し、ICT技術を活用して新たな取り組みを進めている各県。その中で、一様に課題として挙げるのがIT人材の不足です。
「DX推進に関する九州企業の意識調査」でも、DX推進に「必要なスキルやノウハウがない」(47.7%)、DXに「対応できる人材がいない」(47.3%)という回答が目立ちます。
これについて自治体もサポートするべく、IT人材の育成に力を注いでいます。その中でも注目したい取り組みをご紹介します。
「課題解決先導地域としての九州の実現」をテーマに、「九州産業技術センター」と「九州地域産業活性化センター」が組織統合を行い2020年4月に発足。国内外の市場動向の把握から技術開発・産学連携・人材育成まで一貫した事業化支援機能を有した機関です。官民学が連携して運営に携わっており、九州地域の活性化を図っています。
人材育成に関しては、ワークショップ「九州デジタル経営塾」の開催、デジタル化、データの活用、技術とソフトウエア・システムの融合による新ビジネス等のテーマに沿った合宿形式の講演、事例研究、討議、交流会などを通してのリーダー人材育成事業、若手研究者の留学や学会参加などをを支援する事業などを展開しています。
県内の情報産業分野の中心的役割の担い手となるべく、「地域ソフト法」に基づき「政府出資特別法人」として情報処理推進機構(国)・宮崎県・県内全市町村および民間企業26社の出資により、1994年4月に設立されました。IT人材の育成・雇用創出、中小企業のIT支援、ICTリテラシーの向上を目的に、さまざまなIT事業を創造しています。人材育成、コンサルティング、ITソリューション、カスタマーケアセンター、高度IT研修などのサービスを提供することで、IT人材を創出しています。
九州はIT企業のサテライトオフィス誘致にも積極的で、北九州市ではヤフー、GMO、富士通などを誘致。宮崎市は電通、UUUMなどを誘致しています。九州地方でDX推進の土壌は少しずつ育っていると言えるでしょう。
しかし、人材育成の間も業務は待ってくれません。そこで重要になってくるのが、外部パートナーの存在です。
例えば、業務効率化を目的にRPA導入を検討するとします。
導入時には「WinActor」や「UiPath」といった多数のソフトから自社の業務に最適なものを選ばなければなりません。また、RPAにどんな業務をさせるのかの選定も重要です。その後、実際にロボットを構築する作業も必要です。
さらに、RPAをはじめ、デジタルツール一般は導入したら終わり、ということにはなりません。ツールなので、必ず運用し、時に変更や修正が必要になります。社内でIT・RPA人材を育成している期間中は、外部の専門会社と協力することになります。
協力会社の選定については、自社のDX・デジタライゼーションの「目指す姿」を明確化した上で、自社に必要なスキルや人材を持つ会社を探しましょう。
たとえば、RPAエンジニアを探していたとしても、RPAにはソフトが多数あり、それぞれ操作方法が異なるので「うちはWinActorしか対応できません…」というケースもあり得ます。また、RPAの構築はできても、他のデジタルツールに造詣が深くない、というケースも少なくありません。
ニーズに合致した協力会社を探すのは、DX・デジタライゼーションの重要な要素です。ぜひこだわってみてください。
ロボフィスは九州・福岡県に支店があり、「WinActor」「UiPath」の導入実績も豊富です。また、「kintone」などRPA以外のデジタルツールについてもさまざまな事例を持っています。現地RPAエンジニアが直接御社に伺い、現場担当者にヒアリングして最適な業務効率化をご提案します。
九州地方の企業におけるデジタライゼーション・DXの今 まとめ
九州地方は自然豊かで農作物も豊富、観光資源あふれる魅力ある土地です。一方でその地形差が光ファイバの設置を遅らせるなど、デジタル化にとっては不利な条件もあります。
しかし、少子高齢化や農業の後継者問題に対して強く危機感を抱いていることから、IT企業のサテライトオフィスの誘致やIT人材育成に積極的です。
九州地方の中小企業は、これまで紹介してきた行政の動き、また全国のデジタライゼーション、DX推進の流れの中で、自社にとって必要な業務改革を進めていくことが求められます。
「目指す姿」や課題は企業それぞれですので、必要なデジタライゼーションやDXの内容については一概に語ることはできません。ただし、それらを自社のみで進めることは、どんな会社でも難しいものです。ぜひ、信頼できる協力企業を見つけてください。
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