日本列島の最北端に位置する北海道。自然豊かで四季折々の表情があり、自然の恵みである農産物や海産物でも有名で、観光地としても人気があります。
自然に囲まれたイメージのある北海道ですが、実は北海道は宇宙ロケット開発の先進的取り組みが集まっている場所ということはご存じでしょうか? 2018年には内閣府の「宇宙ビジネス創出推進自治体」にも選定されるなど、宇宙産業界では注目されている存在なのです。
そうした環境下で、DXおよび DXを目指したデジタライゼーションに関するお問い合わせが北海道内からも徐々に増えてきています。
本稿では、北海道におけるDXの取り組み実態とDX事例をご紹介します。
北海道で事業を運営されている方や、道内でのDX事例を集めている方、これからDXに取り組みたい方は、ぜひ最後までご覧ください。
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北海道におけるDXの進捗状況
帝国データバンク「DX 推進に関する道内企業の意識調査」では、DX を「理解し取り組んでいる」北海道内の企業は 12.4% 、DX の「言葉の意味を理解し、取り組んでいる」企業は 12.4%となっています。DXの「意味を理解し取り組みたいと思っている」(22.1%)とあわせて 3 割強の企業が DX への取り組みを前向きに捉えているようです。
一方、DXの「言葉の意味を理解しているが、取り組んでいない」(34.5%)、DXの「言葉は知っているが意味を理解できない」(12.9%)、DXの「言葉も知らない」(8.8%)といった結果となっており、半数を超える企業では DX への取り組みが進んでいない現状が見えてきます。
北海道内でDXの取り組みが進む企業では、ペーパーレス化が進んでいるようです。
DX の「言葉の意味を理解し、取り組んでいる」企業が現在取り組んでいる内容(複数回答)で最も多かったのは「ペーパーレス化」(83.3%)でした。次いで「オンライン会議設備の導入」(78.8%)、「テレワークなどリモート設備の導入」(69.7%)が続き、DX の初期段階とも言えるデジタイゼーションに関する取り組みが多く実施されています。
一方で「AI 活用(チャットボットによる自動化やビッグデータ分析等)」は4.5%にとどまっており、北海道内のデジタライゼーションについては道半ばである状況が伺えます。
※調査期間: 2021 年 12 月 16 日~2022 年 1 月 5 日
調査対象は:1052 社で 有効回答企業数:534社(回答率 50.8%)
北海道内の企業でDX に取り組む上での課題については、DXに「対応できる人材がいない」が 44.8%、DXを進めるのに「必要なスキルやノウハウがない」が 41.4%でした。すでに DX を理解し取り組んでいる企業でも約 3 割が人材不足と時間の確保を課題に挙げていることから、人材不足がDXの進捗を妨げる要因となっていることがわかります。
まとめると、「DX推進の必要性は把握しているが、DX人材がいない」あるいは、「DX推進に取り組む時間やノウハウがない」といった北海道内企業のDX事情が見えてきます。
北海道の未来社会を描く「北海道Society5.0」
DXは経済産業省を中心に政府主導で進められており、もちろん北海道でもDX推進に注力しています。それが「北海道Society5.0」です。
北海道Society5.0とは
ICTやAI、ロボットなどの未来技術を活用して、北海道が直面する課題を解決するとともに、そこから得られるデータを活用して道民生活の一層の向上や新サービスの創出などにつなげていくことで実現されるであろう、概ね10年後(2030年頃)の「北海道の未来社会」を指します。
「北海道 Society5.0 構想」の概要より
つまり、北海道Society5.0とは「2030年ごろに実現している北海道の社会」をイメージされたものです。会社経営では「目指す姿」や「ビジョン」、中期経営計画のスローガンとも言い換えられるでしょう。
では、北海道Society5.0をどのように実現していくのでしょうか?
2021年3月に推進計画が策定されています。推進期間は2021年度から2025年度までの5年間として、以下のように記述されています。
「北海道Society5.0構想」で描いた『未来技術を活用した活力にあふれる北海道』の実現に向け、「暮らし」、「産業」、「行政」の3つの分野に加え、横断的視点として「データの利活用」、そしてそれらを支える「基盤整備」を施策の柱として取組を推進します。
北海道「北海道Society5.0推進計画」より
計画の具体的な内容については、2020年3月に作成された「北海道Society5.0構想」に記述されています。
中でも、基盤整備、人材育成、産業の部分を抜粋します。
構想実現に必要なこと
(1)情報通信基盤の整備
・ Society5.0 の実現には農林水産業、ものづくりの生産現場など、あらゆる場面で未来技術を実装し、データを収集、活用していくことが必要であり、その基盤となる 5G 等のブロードバンド環境の面的整備が極めて重要。
(2)人材の育成・確保
・ 学校教育における ICT 環境の充実とともに社会人として企業等で働く方々にも、未来技術について理解を深め、スキルを習得してもらう機会等を提供することが必要。
・ 研究者の確保に向け、道内で研究・活躍するフィールドを広げるとともに、例えば、企業や自治体などが連携し、研究者が自分の研究をビジネスチャンスにつなげていく、「オープンラボ」の道内への開設などといった積極的な取組が期待される。
(3)Society5.0 を先導する道内 ICT 企業の育成
・ 道内各地で Society5.0 を実現に向けた取組を進める上で、地域や企業などが抱える課題やニーズにきめ細やかに対応し、身近な課題や相談に柔軟に対応することができるようつなげていくといった施策も考えられる。
(4)新産業の創出
・ Society5.0 の実現は、社会における暮らしや産業構造を大きく変えるものであり、Society5.0 において成長が見込まれる、あるいは必要となる新産業を創出していくことが重要である。
・ 現在、大樹町において、小型ロケットの打ち上げや宇宙産業の誘致などに向けた取組が進められているが、ロケットの離発着場や関連産業の集積などが進めば、北海道の全体の経済発展、新産業の創出に大きくつながる可能性があり、一層の取組が期待される。
「北海道 Society5.0 構想」の概要より
これら目的と計画の中で、どのようなDX事例が北海道で生まれているのでしょうか?
北海道内で進められているDX事例をまとめました。
北海道内におけるDX事例
自治体事例① 北海道岩見沢市「みちびき(準天頂衛星システム)を活用した除排雪管理・作業支援システム」
降雪量の多い北海道ならではの課題を、衛星システムとITツールを用いて解決を図る実証実験が2022年2月~3月まで岩見沢市で行われました。それが「みちびき(準天頂衛星システム)を活用した除排雪管理・作業支援システム」です。
近年、岩見沢市では除排雪業務を担うオペレータの高齢化や後任者不足によって、機械運転時間が増加傾向にありました。人材不足を補うため、土地勘や経験が浅いオペレータでも市民満足度の高い作業を行う仕組みづくりが必要となっています。また、熟練オペレータの技術継承も課題です。
そこで、除雪車両にタブレットと除排雪作業支援システム(アプリ)を搭載し、さらに衛星によって位置情報や作業軌跡のデータを取得。その情報をクラウド型システムと連携させることでデータ化・見える化し、作業効率のアップを図りました。
市役所ではクラウド型システムから除雪車両の現在位置や作業履歴の把握し、市役所の除排雪対策本部全員で情報を共有。同時に市民からの要望管理も行い、要望があった地域に近づくとタブレット上でコメントが表示され、要望に適した業務が行えるようになっています。
さらに、取得した各種データをBIツールで収集・蓄積。データ分析および見える化を行うことで、数値によって計画立案・改善を行うことが可能です。
衛星システムを除雪に使用する、という取り組みは北海道ならではですね。
参照:北海道 Society5.0 「みちびき(準天頂衛星システム)を活用した除排雪管理・作業支援システム」
自治体事例② 北海道恵庭市「図書館カードレスIC化事業」
コロナ禍において、人との接触をできるだけ減らしたい、と考える方は少なくないでしょう。
市立図書館「恵庭分館」では、人との接触回数を減らしつつ、利用者数の向上を目指して、静脈認証で利用者を管理するサービスの実証実験を2021年3月から開始しています。
使い方は、静脈認証システムに手のひらをかざすだけ。分館に所蔵されている約4万3000冊の本にはICタグが付いており、貸し出し処理をせずに退館すると警告ブザーが鳴る仕組みです。
カード忘れの問題を解消し、お子さまを抱っこしたまま片手で貸出できる、非接触で安全なサービスが受けられるなどのメリットがあります。
また、窓口対応業務を縮小することで、司書業務に時間を確保できるようにもなったそうです。
このシステムの導入で開館時間を拡大、2023年1月には開館時間を22時まで延長するようになりました。利用者も1.2倍になったそうです。
こんな便利なシステムは、ぜひ全国でも使いたいところですね。
参照:北海道 Society5.0「手のひら認証で、いつでも利用できる図書館を」
自治体事例③ 北海道 芦別市市役所「セミセルフレジと財務会計システムを活用したRPA化」
市役所では公金収納のためにレジスターが設けられています。芦別市役所では、これをセミセルフレジに変更する取り組みを2020年12月~ 2021年3月まで行っています。
芦別市役所では新型コロナウイルス感染症の拡大防止のため、キャッシュレス決済を導入。一方で現金を取り扱いたい利用者に向けても滞在時間を少なくするような、接触の機会の防止に取り組む必要がありました。
そこで、セミセルフレジを導入することに。窓口での混雑防止が期待でき、現金や人との接触を抑制することで感染症リスク低減効果が期待できます。さらに、省力化を図るべくRPAを導入して財務会計伝票作成を完全自動化。RPAの構築は職員が行うことで、費用も抑えています。
RPAはミスなく365日稼働できるほか、ダブルチェックも不要になるため、生産性向上にもつながっています。
参照:北海道Society5.0「セミセルフレジと財務会計システムを活用したRPA化」
北海道Society5.0事例より
事例④ 一般社団法人 北見管内さけ・ます増殖事業協会「衛星を利用した持続可能なサケ資源生産支援プロジェクト」
こちらは自治体事例ではありませんが、宇宙産業技術を使った北海道ならではの課題を解決するためのユニークな実証実験例です。
北海道水産業のメインであるサケの来遊量は、地球温暖化の影響により幼稚魚の死亡率が上昇していることから、近年減少傾向にあります。この課題に対して、稚魚の生育にとって最適な放流時期を最適に選択することができれば、減少傾向を食い止めることができるのではないか、という仮説が検討されていました。
そこで、衛星で観測する海面温度や基礎生産量情報等を用いて、放流の適期予測技術の向上を実証することに。
これまでのサケの栽培漁業※は、稚魚を親魚と同じ大きさに育てる技術(種苗生産技術)と、水温ブイからのピンポイント情報に依存していて、最適な放流ノウハウが技術として確立されていたわけではありませんでした。
※生物を人為的な設備、環境下で育成し保護した後、自然へ戻して漁業の促進を図るシステムのこと。栽培漁業において稚魚を育てることを種苗生産、育てた稚魚を海に放すことを種苗放流という。
この課題について、衛星からの海面温度の現況や、放流稚魚のサイズ、水温の変動予測、海洋水塊の分布など海洋環境の予測情報を利用。水温予測モデ ルで3カ月先の水温がわかるようになり、放流時期が決定しやすくなりました。同時に、放流シミュレーションを行うことでリスク管理も可能になりました。
これにより、サケが再び北海道の川へ戻ってくる3年後、捕獲数が約20%増加すると見込まれています。
参照:2020年度「衛星を利用した持続可能なサケ資源生産支援プロジェクト」
内閣府 宇宙s-net「衛星データを利用して放流時期の最適化をはかる」
地方創生につながるDXとは
北海道のDX事例は、いずれも北海道ならではの課題と環境による取り組みで、興味深いものだったのではないでしょうか。
いずれも実証実験の段階ではあり、他の地方では環境が整わないということもあるかもしれません。
一方で、DXで実現できる未来都市像はイメージできるのではないでしょうか。
ITやDXというと、都心部のデータやソフトウェアを取り扱う事業だけが関係する、というイメージを持っている方も少なくないでしょう。
ITがデータやソフトウェアを取り扱うのは間違いありません。しかし、そのデータやソフトウェアを活用するのが、IT企業だけというわけではないのです。
事例内にあった、除排雪作業やサケの栽培漁業については、昔から北海道内で行われてきた業務です。かつてはこの業務のノウハウについて時間をかけて後継者に伝えていましたが、少子高齢化社会において、これまで通り時間をかけて育てている時間的な余裕がなくなっています。通常業務を行いながら、効率的に後継者に熟練の知識を伝えていく必要性が出てきているのです。
それら課題を解決に導く可能性を秘めているのが、ITでありDXの発想です。
DXとは、以下のように説明されます。
「企業がビジネス環境の激しい変化に対応し、データとデジタル技術を活用して、顧客や社会のニーズを基に、製品やサービス、ビジネスモデルを変革するとともに、業務そのものや、組織、プロセス、企業文化・風土を変革し、競争上の優位性を確立すること。」
経済産業省「デジタルガバナンス・コード2.0」より
簡単に言うと、「データ(IT)を活用することで環境を変え、新しい価値を生み出すこと」と言えます。
もしサケの栽培漁業の支援プロジェクトが実用化すれば、その技術を海外に販売することができるかもしれません。除排雪作業のシステム化が実用化すれば、日本の降雪地域も作業が大幅に効率化でき、本来の市民サービスにより人的リソースを費やすことができるかもしれません。
地方に根差した課題も、ITの力を活用してDXの視点で展開していけば、地方創生の起爆剤になる可能性を秘めています。
北海道のDX推進には、協力的なパートナーが必須
北海道内の企業がDX推進する際に困難なのは、IT人材・DX人材が少ないことにあります。先述した帝国データバンクの調査でも、DXに「対応できる人材がいない」が 44.8%、DXを進めるのに「必要なスキルやノウハウがない」が 41.4%。すでに DX を理解し取り組んでいる企業でも約 3 割が人材不足と時間の確保を課題に挙げている状況です。
しかし、北海道ではなかなかDXやITツールの最新情報を入手しづらいというのも事実です。
インターネットが普及して情報がどこでも手に入るようになったとはいえ、それは「自分が知りたいことを知る」技術であって、まったく知らないことはなかなか目にすることができません。また、コロナ禍もあって展示会の開催や巡回なども減少傾向にあります。
北海道でDX推進およびDX人材の育成についてノウハウを得るなら、道内で活動するIT企業、そして全国に支社を持つIT企業と協力関係を結ぶのが近道です。
とくに、営業しかいない、という会社ではなく、エンジニアがいて、なにかあった時にすぐに駆け付けてくれる会社をパートナーとする方が安心です。
なぜなら、ITツールはエラーを起こすものだからです。
「機械はミスをしないんじゃないの?」という疑問については、まさにその通りです。しかし、クラウドシステムならインターネットが不通になれば使用できませんし、それまで使っていたシステムでもフォルダの名前を変えただけで機能しなくなることもあります。
もちろん、内製化して社内に対応できる人材がいればいいのですが、多くの企業は通常運用だけで手一杯になりがちです。なら、エラーが起きてもすぐに駆け付けてくれるパートナーをつくって、直ちに復旧できるよう体制を整えた方がうまくITツールを運用・活用することができるでしょう。
今、北海道のみならず日本中が少子高齢化で人手が足りない状況です。そんな中で、自社だけで対処し続けるのはなかなか難しいことが多いでしょう。ぜひ、自社の目的に沿った信頼できるパートナーを見つけて、DXを進めてください。
ロボフィスでは北海道・札幌市に営業所を構え、DX推進をはじめRPAなどの業務自動化ツールの導入経験豊富なDXコンサルティングエンジニアが在籍しています。DX推進、業務自動化をお考えの方は、ぜひお気軽にお問い合わせください。
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