前回までのあらすじ
DX推進部に異動になった初心(はつこ)さん。外部コンサルタントの進方(しんぼう)さんに、DXの成功事例を教えてもらって、DXのイメージをつかみました。
今回からいよいよDXの進め方について解説します。今日は「DXで目指す会社の姿」について考えてみましょう
会社の「目指す姿」って言っても、一社員にそんなこと決められないですよ~
それはそうです。
でも、「こういう考え方で進めた方がいいですよ」という提案をすることは業務の範囲ですよね? どういう考え方で進めるのかを学んでいきましょう!
ゼロからわかる!RPAと導入のコツ
「RPAとは?」「RPA導入を考えているけれど、どうすればいいのかわからない」といった方に向けて、わかりやすく解説した資料です。
目指す姿を考える①:ビジネスモデルを整理する
どうやって考えるのかまるでとっかかりがないですが?
まずは自社のビジネスモデルを整理してみましょう。
自社のビジネスモデルの整理が、なぜDXにつながるのか疑問に思われるかもしれません。DXは「データ(IT)を活用することで新しい価値を生み出すこと」ですよね。
では、これまでの自社の価値とはなんだったのでしょう?
なにか強みがあってこそ、自社の経営は継続できていたはずです。新たな価値を判断するには、それまでの価値をはっきりさせておく必要があります。
たとえば、前回紹介したNetflix(ネットフリックス)は、レンタルビデオ業界では後発の新規事業会社でしたが、それまでの業界の価値を「自宅で映像作品が楽しめる」という点に定めました。そして創業者の一人ヘイスティング氏の経験から「レンタルの延滞料金をなくしたらもっと素晴らしい」という新たな価値を着想しています。
「延滞料金なしで、自宅で映像作品が楽しめるサービスを提供する」という軸があるからこそ、その後のストリーミング配信へと大胆に舵を切ることもできたのです。
新規参入の場合だけでなく、それまで自社はどんな業界で、どんな立ち位置で、どんな商材を扱い、どんな顧客を得て、どのように利益を得てきたのかを考えてみてください。
また、その自社の状況は、自社にどんな特徴があったからこその結果なのかも考えてみましょう。
取り扱った商材が良かった、人材が優秀、価格が適正、経営者の人脈…おそらくさまざまな要素があるはずです。
自分だけで分析するんじゃなくて、みんなで考えたいかも
いいですね! たくさんの社員を巻き込んでいくことで、社内におけるDXの機運も高まりますよ
目指す姿を考える②:業務プロセスを把握する
自社の立ち位置を把握したら、次は自社の業務プロセスを把握しましょう。
各部門がどのような業務をどのようなプロセスで行っているのか。年度、半期、四半期、月次、日次など期間ごとに把握していきます。同時に、部門で使用しているシステムがあるならそれも把握しておきます。
上記は各部門の担当者にヒアリングする必要があるでしょう。実務に則した情報を手に入れることで、実現可能な計画の立案につながります。
業務プロセスを把握することで、どこがデジタル化可能かわかりますし、デジタル化の優先順位をつけることもできます。
違う部署の仕事って全然知らなかったりするから、しっかり話を聞かないと!
DX推進プロジェクトは長期間にわたるので、この時点で良好な人間関係を作ることを意識しておくといいですね
目指す姿を考える③:どんな業務改善が可能か
業務プロセスを整理すると、どんな業務改善ができるか見えてくるでしょう。もしかすると、ヒアリング中にも改善策の話が出ているかもしれませんね。おそらくたくさんの改善策が出てくるでしょうが、いきなりすべてに着手することはできません。
まずは優先順位をつけましょう。
優先順位の付け方は、①で整理した自社のビジネスモデルがヒントになります。他社や業界に対して優位に立てているプロセスがあれば、そこを重点的にデジタル化・効率化することで、さらに他社に対してのアドバンテージを作ることも期待できます。
業務改善は、もちろんこれからの時代、可能な部分はデジタル化するべきでしょう。FAXからEmailへ、紙書類からPDFへというように、デジタル化を進めていきましょう。
ただし、システムやアプリを導入するのはもう少し業務を整理してからに。
システムの導入ありきで考えると、本来は不要なシステムを導入して、コストだけがかかってしまう、ということもあり得るからです。
まず見直すべきは仕事のやり方。
FAXで受け取った注文書を手動でExcelに打ち込んでいれば、Emailに変えるだけでコピー&ペーストで作業ができるようになります。
日報を紙書類で提出して上長に提出するのであれば、日報アプリに直接書き込めば、上長への紙書類の受け渡しという行為が不要になります。さらに、日報の利活用を検討した結果、上長が一週間に一度まとめて確認している、ということであれば週報という報告の仕方でも良いかもしれません。
こうした業務の抜本的な見直しをBPR(ビジネスプロセス・リエンジニアリング)※と言います。
※業務本来の目的に向かって既存の組織や制度を抜本的に見直し、プロセスの視点で、職務、業務フロー、管理機構、情報システムをデザインしなおすこと。
RPAの導入の時と同じことをしてる!
手間がかかっていた業務を自動化するのは、DXの第一歩です!
参考:初心、RPAを学ぶ:第3回「RPAを導入する前に確認すること」
目指す姿を考える④:どんなビジネスモデルが考えられるか
ビジネスモデルを整理して、業務プロセスを把握し、見直しました。おそらく、これだけでもかなり業務効率化していることでしょう。
その上で、改めて自社の課題を考えてみてください。
現在の会社の強みを強化する、あるいは発展させられるものは社内になかったでしょうか? あるいは、「もっとこうだったらいいのに」といった会社像は生まれてこなかったでしょうか?
一つ事例を紹介します。
現在はヘルスケア事業を中心に展開している富士フイルムは、もともと写真フィルムの製造会社として1934年に創業しました。その後、写真フィルムや印画紙のメーカーとして国内で最大シェアを誇るようになりましたが、2000年代に入ってデジタルカメラの台頭で業界全体が危機的な状況に見舞われます。
そこで同社は、フィルムの生産技術を化粧品・医薬品に転用するという決断をしたのです。その判断が功を奏し、現在では高級化粧品の製造などのヘルスケア事業で、富士フイルムは大きく業績を伸ばしています。
これは同社が「フィルム製造技術」という自社のコア技術を確認した上で、それを別のビジネスモデルにスライドさせたという事例になります。
もちろん、異なる業界に新規参入する際には相当な調査や対策が必要でしょう。同社は2004年から新規事業を立ち上げ、研究に3年かけて商品を開発。当初は販路がなく通信販売からスタートし、発売4年目で売上高100億円を突破するようになりました。
富士フイルムの事例のように、自社の強みを把握した上でどのようなビジネスモデルをつくるか。それが会社の「目指す姿」につながります。
「目指す姿」って言われると壮大な感じがするけど、やってることは結構地道ですね
そうですね。一般社員がコツコツ積み上げることで、経営のヒントをたくさん提示することができます
「目指す姿」を決めるのは経営者
私たちDX担当者って、社長とか偉いヒトに「『目指す姿』を考えるためのヒント」をいっぱい渡すことなんですね
そうです! それは経営者にだけでなく、社内の人たちに共有することでも「『目指す姿』を考えるヒント」を渡すことになりますよ
会社の「目指す姿」を決定するのは、もちろん経営者です。
しかし、DX推進担当はこの「目指す姿」を経営者に描いてもらう材料を集めることが業務です。
同時に、DXは現場だけで進めることはできません。経営者自身もDXによって何を成すべきなのか、何を成したいのかを考えることが重要です。責任者や担当者に任せきりで、明確な「目指す姿」を打ち出せていない…という場合、現場も熱がこもらず「言われたからやっただけ」というツール導入で終了してしまいがちです。
・ビジネスモデルを整理する
・システムの流れを把握する
・どんな業務改善が可能か
・どんなビジネスモデルが考えられるか
ぜひ上記を考えて、社員と共有できる「目指す姿」を見つけてください。
もしかして、社長と仲良くなればDXは進むってコト?!
極論そうですね(笑)。社長自身が現場の状況を把握して、音頭を取っている会社はDXの進み方がとても早いのは事実です
次回は、DXの第一歩・デジタライゼーションと部署内のDXの進め方を学んでいきましょう!
つづく
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