前回までのあらすじ
DXに欠かせない技術である「AI」「IoT」「クラウド」について学んだ初心さん。今回は、DXを進める考え方(マインドセット)について知識をアップデートしていきます。
DXを進めるため、考え方を学ぶのも大切です。今回は「デザイン思考」についてお話ししましょう
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DXに欠かせない「デザイン思考」とは?
なんで「デザイン」なんですか??
ここで言う「デザイン」は、意匠のことではないんですよ
デザイン思考<Design Thinking>とは、問題を解決する方法を設計(デザイン)するための考え方です。
日本では「デザイン」というと、パッケージやポスターなどのグラフィックデザインをイメージしがちですが、デザインとは以下の3つの意味があります。
デザイン[名](スル)
1 建築・工業製品・服飾・商業美術などの分野で、実用面などを考慮して造形作品を意匠すること。「都市を―する」「制服を―する」「インテリア―」
2 図案や模様を考案すること。また、そのもの。「家具に―を施す」「商標を―する」
3 目的をもって具体的に立案・設計すること。「快適な生活を―する」
デジタル大辞泉より
意匠の意味の「デザイン」は一部分の意味でしかないんですね!
グラフィックデザイナーであっても、彼らの役割は「センスの良い品」を作ることではなく、「クライアントの目的を達成するための窓口」を作ることです。
例えば、「お客様に新商品の告知をしたい」という課題をクライアントが抱えていれば、「どんなサービスを」「いくらで」「いつ提供できるか」を、ターゲットに最も届きやすい入口(チラシやポスターのデザイン)を提示するのがグラフィックデザイナーの本来の役割であると言えます。
上記はあくまでもグラフィックデザイナーとしての課題解決の切り口です。「もっとお店の売上を上げたい」という課題があれば、「お客様はお店でどんな動きをしているのか?」⇒「商品棚の配置を変えてみる」/「お店に行きたいと思うのはどんな時か?」⇒「商品の価格、もしくは品質かを見定める」「レジャーとして来店している」など、ユーザの動線を生み出すことも、デザイン思考で可能です。
つまりデザイン思考は、さまざまなプロジェクト進行にも役立つ考え方であると言えます。
特にDXは、デジタルの力を利用して大きな変革を起こすことを目的にしています。そのため、どのように課題を設定し、それを解決していくかについて考えるデザイン思考は、DX推進においても大いに役立つマインドセットとなります。
デザイン思考的な課題解決の実例
それで、デザイン思考で具体的にどういうことができるんですか?
では、デザイン思考的な考え方の具体例をご紹介しましょう
デザイン思考の事例① シャネル
服飾ブランド「シャネル」の創業者、ココ・シャネルは20世紀初頭に活躍したファッションデザイナーです。
「コルセットを付けるために女性が働くことができない」「女性の社会進出をどうすれば助けられるか」という課題に対して、乗馬服からアイデアを得た女性用ズボンやジャージー素材を使用した締め付けの少ない服を生み出し、それまでの女性ファッションを一変させました。今日の女性がコルセットを付けたドレスを着用していないのは、シャネルの「女性はドレスを着るもの」という固定概念を打ち崩したからです。
シャネルは「デザイン思考を使おう!」と考えていたわけではありませんが、デザイン思考的な考え方と言えるでしょう。
デザイン思考の事例② Sony「ウォークマン」
それまではテープレコーダーで音楽を聴くことが当たり前でしたが、ウォークマンの登場で音楽は移動中や外出先でも聞けるものになりました。これは「音楽が好きな人に、どうすればいつも音楽と一緒に活動してもらえるか」という課題を解決するために提示された解です。
デザイン思考の事例③ Apple「iPhone」
iPhoneはそれまで「電話とはこうあるべき」という既成概念を超え、私たちのライフスタイルまでも大きく変えた、まさにDXの成功を体現する存在です。
それまで携帯電話は「ボタンが付いていて」「スピーカーとマイク部分が分かりやすく」「テレビ機能も備えている」といったユーザが想像するそのままが具現化されたデザインでした。それ自体もとても画期的なものでしたが、Appleはこれを大きく飛躍させて「小型PCの役割を果たす携帯電話」というコンセプトでiPhoneを開発。これは「携帯電話はこうである」という既成概念以上に「電話やテレビだけでなく、インターネットやメールができた方が便利だ」という、より良いユーザ体験をデザインしたことから生まれた製品です。
どれもそれまでの生活スタイルが大きく変わったモノですね!
いずれも意匠からではなく、課題設定からスタートしています
デザイン思考のプロセス
デザイン思考では以下の5つのプロセスを辿ります。
①共感(もしくは発見)
②定義
③アイデア
④プロトタイプ(試作)
⑤テスト
デザイン思考のプロセス① 共感
「共感」(もしくは「発見」)のプロセスでは、課題を見つけるための情報集めを行います。デスクリサーチはもちろん、アンケートなどを使った定量・定性的な調査、インタビュー調査などを行い、課題がどこにあるのかを突き止めます。あるいは、新規事業・新サービスの開発であれば、「何に課題を感じているか」といった課題そのものを発見するのもこのフェーズです。
インタビューや観察調査では、ユーザの行動や前後の状況など、行動の背景を調査できます。同時に、価値観やニーズと言った、行動の背景にある考え方や欲求も知ることができます。
ここで重要なのは、すぐに結論を出さないことです。ユーザの声が最も重要と言っても、ユーザが自身のニーズをきちんと把握して言語化しているとは限りません。iPhoneが登場する以前から「電話もネットも仕事もできる携帯電話が欲しい」と皆が切望していたわけではありません。ユーザのニーズの奥に隠された本質的なニーズや課題を分析することが重要です。
集めた情報をもとに、ペルソナやカスタマージャーニーマップ、価値マップなどを作成していきます。
ペルソナ:プロジェクトメンバーがユーザについての共通認識を持つための仮の人物設定
カスタマージャーニーマップ:顧客体験を旅に見立てて構造化・視覚化したもの
価値マップ:あるユーザの潜在・顕在ニーズを全体的に捉え、構造化・視覚化したもの
デザイン思考のプロセス② 定義
プロセス①で集めた情報をもとに、解決すべき課題を定めます。定める内容は大きく3つで、「ターゲットは誰か」「何を解決すべきか」「どうやって課題を解決すべきか」が挙げられます。この時、課題が複数見つかることもありますが、一つに絞り込みます。
具体的には、プロセス①で集めた情報をもとに、関係者でブレインストーミングしていきます。その中で、ユーザがどんなことに不満・不便を感じているかを探します。同時に、集めた情報からどんな気づきがあるかも共有していきます。そこから課題の仮説につながっていきます。
また、情報の共有や気づき(インサイト)の探索のほか、リフレーミングも行います。リフレーミングとは、ユーザの悩みについて別の視点からも見直してみることで「真に解くべき問題は何か」を探し出す作業のことです。
たとえば、ユーザのニーズが「RPAを導入すること」だったとします。しかし、RPAを導入して行いたいことは「商品マスターをシステムへ登録すること」だった場合、「CSV取り込み」でも対応できることに気が付きます。
もっとヒアリングを深めていくと、真の目的は「業務効率化」で、その場合、「そのExcel作業は本当に必要なのか?」という視点に立つことができるでしょう。
さらに目的を深堀すると、実は「残業時間の削減」が目的で、問題の根本が業務フローの煩雑さにあったとしたら、ニーズに対する真の課題は「業務フローの煩雑さ」であり、それに対する解は「業務フローをシンプルな工程にブラッシュアップすること」という仮説が生まれてきます。
これがリフレーミングの効果です。
DX推進でも役立ちそう!
また、リフレーミングで本当の課題が見えてきたら、着眼点(POV)も設定するといいでしょう。
POV<Point Of View>とは、プロジェクトのトピックを、実行可能な問題定義に変換したものです。POVの作成には以下の穴埋め式フレームワークが有効と言われています。
【ユーザ】は【ユーザのニーズ】をする必要があった、なぜなら【インサイト】のためだ。
【】部分を埋めていくことで、POVができ上がります。
デザイン思考のプロセス③ アイデア(展開)
プロセス②で定めた課題を解決するアイデアを考えます。デザイン思考でよく使用されるのはブレインストーミングで、できるだけ多くのアイデアを出し、優先順位付けをしていきます。
ブレインストーミングのルールは以下の4つです。
①判断・結論を出さない
②どんな考え方も歓迎する
③量を重視する
④アイデアを結び付けて発展させる
ブレインストーミングには2つの役割があります。
まず1つ目が、アイデアをできるだけたくさん集め、ブラッシュアップしていくことです。そして2つ目は、プロジェクトの方向性をチームで共有することです。ブレインストーミングはあくまでもアイデアを集めるための場であり、その場でなにかを決定したり、具体的な案を検討したりしません。そのままのアイデアを次のテストフェーズで試すと、検討が足りずに有効なデータが取れない、といったことにつながりかねません。
デザイン思考のプロセス④ プロトタイプ(試作)
アイデアを実際にテストするため、プロトタイプと呼ばれる試作品を作成します。ここではできるだけ早く、多くのアイデアを試すことを重視しているため、プロトタイプは必要最低限の機能を備えるのに留めます。
必要最低限の機能を備えた製品のことをMVP<Minimum Viable Product>と言います。
たとえば、フードデリバリーサービスの「ドアダッシュ」は、スタンフォード大学の学生4人が起業しましたが、当初は注文が入ると創業者自ら料理をデリバリーしたそうです。「アプリからレストランの料理の配達をする」というサービスのMVPは「アプリのニーズを探ること」であり、それ以外を全てそぎ落としています。
また、たった一文でアイデアを検証する方法もあります。
「知らない人の家に泊まりますか?」
これは「Airbnb」のコンセプトプロトタイプです。同社は休暇の宿泊を目的とした、スペースを借りたいユーザ(ゲスト)と、物件を持つユーザ(ホスト)をアプリでつなぐオンラインサービスを提供しています。もともと、オリンピックなどのイベントが起こるたびに宿泊サービスが供給不足になるという課題を解決することを目的としていて、現在では100万以上の物件が予約される人気サービスへと成長しています。
同社の取り組みはDX事例としても有名です
プロトタイプの意義が「アイデアに対してフィードバックを受けること」であると考えれば、カタチにこだわる必要はないのです。
このプロセスで重要なのは、ユーザにとってのそのサービスが価値のあるものなのか、その価値がユーザに届くのかなどのフィードバックを得て改善していくこと。そのため、プロセス③と④は何度も行き来することになります。
こうした過程で、デザイン思考は「早く失敗する」ことも重視しています。早く失敗する、ということは、それだけ早くサービスの弱点や欠点を発見できたということになるからです。
デザイン思考のプロセス⑤ テスト(実現)
これまで検討してきたサービスを、ユーザにテストしてもらいます。
実際にアイデアを評価・フィードバックしてもらい、情報を収集。それをもとにプロトタイプを改善、もしくは別のアイデアを試していきます。
テストの前には、判断基準を決めておくことが大切です。「どんな評価をしてもらうか」「なにを成功の基準とするのか」「どのくらいの評価が得られれば成功と言えるのか」といったことをあらかじめ決めておきます。
デザイン思考のメリットとデメリット
デザイン思考は上記のプロセスを通るため、誰かの体験を改善するのに向いています。ある程度、どのサービス(製品)を改善するか、トピックが絞られているケースを考えるのに、デザイン思考は適していると言えるでしょう。
また、多くのアイデアを素早く試すことにも向いています。多くのアイデアを試して、素早く実装・再検討を繰り返すことができるため、プロジェクトが大きく失敗するリスクを軽減することも期待できます。この点がDXと親和性の高い理由です。
一方で、デザイン思考は「どんな分野の課題を設定するべきか」といった大きな課題を見つけるのには不向きです。デザイン思考はユーザ起点の考え方であるため、そもそもユーザがいない、もしくはユーザが誰にあたるか不明な場合は、適切な問いを立てることが難しくなります。この場合は、別のフレームワークを使って大きな課題を見つけ、課題や方向性を絞ってからデザイン思考のプロセスを辿ると良いでしょう。
また、丹念にユーザの声を拾い調査を行うため、プロジェクトの総時間は多くなりがちです。また、アイデア出しにブレインストーミングを行うなど、ユーザ以外の声も拾う必要があり、多様な人材を巻き込んでいくことも重要です。
まとめ
デザイン思考のまとめ
・デザイン思考<Design Thinking>とは、問題を解決する方法を設計(デザイン)するための考え方
・デザイン思考は5つのプロセスで進める
①共感(もしくは発見) ②定義 ③アイデア ④プロトタイプ(試作) ⑤テスト
・デザイン思考はユーザの声を拾い上げ、新しいサービス(製品)を素早く提供することができる
・デザイン思考は人的コストと時間コストがかかり、大きな課題設定を見つけるのには向いていない
デザイン思考って、「人」が起点になるモノやサービスの開発に向いてるのかな?
その通りです! デザインとは「人のことを考えた課題解決」なんですよ
近年はVUCA※の時代と言われ、変化が早く、人々の価値観は多様化しています。何を基準に考えるのかも、場合によってはあやふやになりがちです。そんな時に、共通言語として機能するのが「デザイン思考」なのです。
※変動性が高く、不確実で複雑、さらに曖昧さを含んだ社会情勢のこと
どんなサービスや製品も、最終的に使用するのは「人」です。その「人」をよく観察し、寄り添うサービスを提供するために、適切な課題設定と解決方法を素早く実現する考え方の一つがデザイン思考なのです。
もっと会社のみんなにデジタルに興味を持ってもらえるよう、社内DXもデザインしていこう~!
DXはさまざまな考え方(マインドセット)やフレームワークを活用することで、円滑に進む場面もあります。社内の共通認識にもしやすいので、ぜひDXを進めながらマインドセットも学んでいきましょう!
つづく
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